組換え酵母菌体を用いたグルクロン酸抱合体の調整
1985年、榊らは出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを宿主として薬物代謝に関与するP450電子伝達系を発現させることに成功し、ヒト由来P450分子種発現酵母を用いて様々な医薬品の代謝物を調製することが可能となった。さらに生城らはもう一つの薬物代謝酵素であるUGTを酵母にP450と同時に発現させることにより医薬品の連続的な代謝反応(水酸化及びグルクロン酸抱合)を再現した。これら発現系の細胞抽出液により代謝物の調製が可能となったが、グルクロン酸抱合反応には補基質として高価なUDP-グルクロン酸を添加しなければならず、代謝物調製に関してはコスト面の問題があった。そこで酵母内でのグルクロン酸抱合反応を可能にするために、酵母が本来持っていない酵素、UDP-グルコース脱水素酵素遺伝子を導入し、酵母の中でUDP-グルクロン酸が供給を可能な酵母株を作り出した。この酵母株を用いて菌体培養液に医薬品を添加することにより容易かつ大量に薬物代謝酵素による代謝産物を調製することに成功した。
また近年では食物から摂取したフラボノイドなどのポリフェノール類が異物として認識され、UGTによって非常に効率よく抱合体に変換された後、体外排泄されることが明らかにされてきた。さらに体内に残ったグルクロン酸抱合体を含むフラボノイド代謝物が炎症部位に蓄積し、脱抱合で産生されたアグリコンが局所的な作用を及ぼす可能性が示され、食品成分の機能性についても代謝物が重要な役割を担っている可能性が示唆されている。
以上のように、医薬品のみならず生体にとって異物と認識される化合物は薬物(異物)代謝酵素によって変換をうけて、生体にさまざまな影響を及ぼすことが明らかとなってきた。今後、酵母を含めた代謝酵素発現系を用いたヒト代謝物の調製技術はますます重要になるものと思われる。