食品成分の作用機序に関する研究
ポリフェノールやビタミンDなどの一部の食品成分は、医薬品と同様に生体内で薬物(異物)代謝酵素により代謝を受けることで、その生理活性や体内動態が変化することが分かっています。
本研究テーマでは、食品成分の代謝様式を基盤として、さまざまな食品成分の生理作用機序解明を試みています。
私たちは最新の遺伝子工学技術で健康の維持・増進に繋がる機能性食品の開発に役立つ研究をしています。
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ポリフェノールやビタミンDなどの一部の食品成分は、医薬品と同様に生体内で薬物(異物)代謝酵素により代謝を受けることで、その生理活性や体内動態が変化することが分かっています。
本研究テーマでは、食品成分の代謝様式を基盤として、さまざまな食品成分の生理作用機序解明を試みています。
ビタミンDは、骨形成作用や抗がん作用などの生理作用を有し、健康寿命の延伸に重要なビタミンです。ビタミンDは食物からの摂取の他、皮膚への紫外線照射により体内でも合成されます。ビタミンDが生理作用を示すには活性型に変換されることが必要で、体内のビタミンDは肝臓で25位が水酸化されて25-hydxroxyvitamin D(25D3)となり、腎臓でさらに1か所が水酸化されて1a, 25-dihydroxyvitamin D3(1,25D3)になります。活性型である1,25D3はVDRへの結合能が25D3の1000倍程度であるため、ごく低濃度でVDR依存的に種々の遺伝子発現を制御し、生理作用をあらわします。一方の25D3は血中濃度は1,25D3の1000倍程度高く、貯蔵型のプロホルモンとして機能していると考えられてきました。しかし近年、「活性型の1,25D3がVDRを介して生理作用をあらわす」という定説だけでは説明のつかない事象が多く報告されています。1,25D3は副作用のリスクから応用が難しいため、当研究室では、これまで生理作用が見過ごされてきたビタミンD代謝物やシグナルを解析し、新しいビタミンDの作用機序を見出そうと試みています。
従来、25-ヒドロキシビタミンD3(25D3)は1α位水酸化酵素CYP27B1により1α,25-ジヒドロキシビタミンD3(1,25D3)に変換され生理作用を示すと考えられてきた。25D3のビタミンD受容体(VDR)に対する親和性は1,25D3の約700分の1だが、血中濃度は1,25D3の約500倍であるため、組織によっては25D3が直接作用している可能性がある。我々は25D3のトリチウムラベル体を用いて、培養細胞内で生成する1,25D3や24,25D3を定量するとともに、種々の遺伝子の発現、細胞増殖に与える影響を調べた。ヒト前立腺由来培養細胞(PZ-HPV-7)を種々の濃度の1,25D3あるいは25D3で数時間–数日間処理し、細胞増殖に与える影響やCYP24A1のmRNA量変化を解析した。VDR核内移行の解析は免疫抗体蛍光法で行った。PZ-HPV-7に25D3(10nM)を作用させたところ、CYP24A1mRNA量は最大で1000倍に増加したが、この時、細胞内に存在する1,25D3の濃度は0.1nM程度であった。0.1nMの1,25D3による誘導倍率は100倍に満たないため、10nMの25D3による誘導の大部分は25D3自身によるものと推測される。VDRの核内移行、細胞増殖抑制作用についても同様に25D3が直接VDRに結合し作用する可能性が示唆された。現在、CYP27B1ノックアウトマウスを用いて25D3の作用機構を解析している。